まだ胸の奥に残る熱を抱えたまま、彼の腕に支えられて浴場へと足を進める。
静かな廊下の一歩一歩が、これからの時間を予感させて胸を高鳴らせた。
湯が溜まるまで、まずは体を洗いましょう──そう言って、私はお湯をかけようとティオの正面へまわる。
「ティオ様、洗いますね」
湯をそっとティオの肩にかけると、流れ落ちるしずくが胸筋を伝い、床へ散っていく。
その雫の軌跡に、思わず目を奪われてしまう。
「……じっと見ないでくれる?」
視線を逸らしつつ、ティオがもぞもぞと呟く。
きょとんとしながら、何気なく視線を下へと落とすと──
「……あっ」
そこには、さっきよりさらに主張を強めたものが、堂々と存在していた。
「……ルシのせいだからね」
ちょっと恥ずかしそうに唇を引き結び、それでも、言い訳のように付け加える。
「ああもう、かわいすぎる……っ!もっと見たい……可愛いティオ様」
そう言って胸元に手を当てると、ぴくりと彼の肩が揺れる。
「ルシ、……もう湯船浸かるよ」
ルシフェリアの攻撃にぐらつきながらも、ティオはなんとか自制心を振り絞る。
――だが、この後もう一度“崩れる”のは、時間の問題である。
湯船に浸かると、あたたかいお湯がじんわりと身体を包み込む。
ぴと、と寄り添うと、そのままそっとティオの太ももに手を伸ばした。
「ねえ、ティオ様……ここ、さっきより、もっと……」
「もぅ、ルシ見ないでってば」
そう言って、抱き上げるようにルシフェリアを引き寄せて、自分の膝の上へと乗せる。
「逆にもっとえっちなことになってますよ」
すかさずぴったりと脚を絡みつかせ、背中に腕を回す。
肌と肌が触れ合って、ぬるりと心地よい水音が響いた。
「……ルシ当てないで……」
「ふふ、だって、せっかく近くにいるんですから」
湯けむりに包まれる中、ティオの首元にそっと唇を這わせた。
「ん、……くすぐった……っ」
戸惑いと熱が混ざったような声。
ルシが唇をすべらせながら、そっと指先を胸元へ這わせると──
「……ぁ……っ、ルシ……そこ……っ」
びくんと、ティオの背が震えた。
水音に紛れて、思わず漏れた甘い吐息がルシの耳に触れる。
「……声、出ちゃいましたね……」
意地悪そうに囁くと、ティオの頬が赤く染まる。
けれど、逃げようとはしない。
むしろ、どこか期待するように私を見つめて──
「……もうちょっとだけ」
ぱしゃ、と小さな水音。
そっと身を寄せ、ティオの唇を奪った。
「ん……っ、ぅ……」
思わず声が漏れそうになるのを、唇で塞ぐ。
そのまま、湯の中で指がそっとティオの胸に触れた。
くにゅ──とやわらかな感触を撫でるたび、ティオの体がぴくりと震える。
「んっ……っ、ル、シ……っ」
唇の隙間から漏れる掠れた声。
恥ずかしそうに身をよじるティオの反応に、どんどん気持ちが昂ぶっていく。
ちゅ、ちゅ、と啄ばむようなキスをしながら、もう片方の手でゆっくりと撫でて──
「ティオ様、すごく敏感になってますね……私に触られるの、好きなんですね」
「んんっ……待って……」
湯にゆらめく蒸気のなかで、そっと手を下に滑らせた。
熱を帯びた肌に触れた瞬間、ティオの喉から小さく震える声が漏れる。
「っ、ルシ……っ、そこ、ダメ……」
けれど、その言葉とは裏腹に、ティオの腰はわずかに逃げ場を求めるように揺れる。
指先が、敏感なそこをやさしくなぞるたび、びくん、と体が跳ねた。
「……こんなに、熱くなってる……ティオ様……」
「っ、ん、うぁ……やっ、声、出る……」
潤んだ目で必死に堪えるティオの姿に、胸がきゅんと疼く。
(ああ、可愛い。愛おしい。もっと、乱れてほしい……)
ゆっくりと手を動かすと、湯の中にくちゅ、と艶めかしい音が溶けていく。
ティオは小さく震えながら、堪えきれずに肩を揺らした。
「ルシ……もう、むり……っ、そんな、されたらすぐ……」
耳まで真っ赤に染めて甘い声を漏らすティオを見下ろしながら、自分の腰を持ち上げる。
膝の上に跨ったまま、湯に濡れたティオの熱を肌で感じながら、そっと当てがった。
「……はぁ……ティオ様……」
ぴたりとそこが触れ合った瞬間、ティオが小さく身を震わせた。
「る、ルシ……?」
驚く様子を気にも止めず自分の体重でゆっくりと腰を落とした。
ずぷっ……と、熱の奥へと満ちていく感覚に、ふたりの喉から同時に甘い声が漏れる。
「く……っ、うあ……! ルシ、ちょっと……いきなり……っ」
「だって、……さっきまでしてたからもう欲しくて……」
ティオの胸に手を添え、ぎゅっと抱きついたまま、ルシは奥までゆっくりと沈んでいく。
そのたびにティオは顔をしかめて息を漏らす。
「ん……あぁ……ティオ様、気持ちい……」
「ルシ……っ、ダメ、そんなに締めたら……」
肌を密着させたまま、呼吸も熱も重ね合って、ふたりだけの世界が湯船の中に広がっていく──
ティオの胸に額を預けたまま、そっと腰を揺らし始めた。
ぬるりとした湯と体液が混ざり合い、やわらかく絡みつくような快感が押し寄せてくる。
「んっ、んぅ……ティオ様の、すごく奥まで……きてる……」
ぎゅっと抱きついたまま、ルシは恥じらいも忘れて、小さくリズムを刻む。
ぴちゃ、くちゅっ……と湯の中とは思えないほどいやらしい音が響き、ティオの耳まで真っ赤になった。
「……ティオ様、顔がえっち……」
愛おしげにティオの頬を撫で、舌先で唇を撫でる。
そしてそのまま――ぬるぬると音を立てながら、腰を上下に動かすたび、
ティオの喉からは堪えきれない吐息が漏れていった。
「っあ、……や、……っ、ルシ、それ以上は……っ」
ティオが堪えるように、思わず湯船の縁を掴む。
ルシフェリアの目に映るのは、湯けむりに滲んだティオの表情。
濡れた睫毛の奥で潤んだ瞳が、じっと自分を見つめていた。
「……そんな顔、されたら……っ」
胸の奥が、きゅうっと締めつけられる。
込み上げてくる愛しさと興奮に突き動かされて、腰をぐっと沈めた。
「っ、んっ……ルシ……気持ちいい……っ」
「ティオ様、私も……もっと、声聞かせて……」
熱に浮かされるようにキスを交わしながら、ふたりの身体は一つになって、――甘く、甘く、昇りつめていく。
ルシの腰が上下するたびに、水音が弾け、湯船の中はとろとろに甘く満たされていた。
「……っ、もう、出る……っ」
潤んだ瞳のまま、ティオが小さく首を振る。
その瞳に、限界の色が滲んでいて――
「ん、っ……いいですよ、……」
「ルシ……っ、あっ……!」
びくんっとティオの体が震えて――
その瞬間、ルシフェリアの内側に熱が広がった。
「はぁ、はぁっ……」
ルシはそのままティオに抱きつくようにして、そっと体を預けた。
心臓の音も、重なりあった体温も、全部ひとつになった気がして――
「ティオ様、だいすき……ほんとに可愛い……」
「僕も……ルシ、大好きだよ……」
***
暫く二人で一つに溶け合うように湯に浸かり、お湯がすっかりぬるんだ頃、名残惜しく湯船を出た。
着替えたふたりは、寝室のベッドにごろんと横になった。
「…………」
ちらりと横に視線を向けると、ティオは視線を逸らして一度背を向けるように寝返りを打った。
「……ふふ、私が好き勝手触ったから怒ってるんですか?」
「……違う」
そうぼそりと呟くと、もじもじと寝返りを打って私の方へと体を寄せてくる。
そしてそっと腕に触れてきて、まるで子供のように私の胸に額を押し付ける。
「…………」
そのままちらっと私を見上げるように、緑色の瞳が動く。
「……ティオ様?そんなに甘えて、どうしたんですか?」
彼の柔らかな髪の毛に手を伸ばし、優しく撫でると、ティオは恥ずかしそうに口を開いた。
「……だって。陛下のこと、“背が高い”とか“イケメン”とか……何回も言ってた……ちょっとだけ、嫉妬してる。僕だって小さいわけじゃないのに」
「……――っ!!」
ルシは弾かれたように上体を起こし、顔を真っ赤にしながらティオを見下ろした。
「……ティ、ティオ様……可愛すぎませんか……!?」
ガバッと抱きついて、ティオの首元に顔を埋めながらもだえる。
「ちょ、ルシ!?顔近――っく、くすぐったいっ」
「……なんでそんな可愛いの!?破壊力高すぎる……!!」
ルシフェリアに押し潰されそうになりながら、ティオは小さく笑った。
「……じゃあ、もう他の人に“背高くてイケメン”とか言わないで。……僕は”ルシの”なんでしょ?」
「っ……はい!……もう、やきもち妬いたら甘えてくるのなんなんですか?得しかない……」
二人の身体が自然と寄り合い、ぎゅっと抱きしめ合った。
「ルシ、このままぎゅってして……眠りたい」
「……はい」
心地よい心音に、まぶたがゆっくりと重くなっていく。
(あぁ、毎日かっこいいティオ様と可愛いティオ様見れて幸せ……)
――こうして、生誕祭の長い夜は静かに幕を閉じていった。


