ルシがお風呂から上がったあと、勧められるままに僕も浴室へ向かった。
湯に浸かりながら何度も「想像するな」と自分に言い聞かせる。
けれど、この後のことを考えるなと言われても無理な話だ。
脳裏に浮かんでは消える光景に、体が勝手に熱を帯びてしまう。
何とか煩悩を振り払って、髪が乾くのもそこそこに寝室へと足を踏み入れた。
そこで待っていたルシは――。
繊細なレースが肩から胸元にかけて流れ、肌を隠しているようでほとんど隠せていない。
腰のラインを強調する細いサテンのリボン。
視線がその下へ滑り落ち、薄い生地越しにわずかに透ける肌をとらえる。
その曲線が、呼吸のたびにかすかに揺れた。
喉が鳴る音が、自分でもはっきり聞こえた。
(……これが、“アレ”か)
数時間前の彼女の笑顔と、「夜のお楽しみですね」という囁きが脳裏に蘇る。
ずっと頭の隅で燻っていた熱が、一気に燃え上がるのを感じた。
目が離せない。
一歩踏み出すたびに、彼女がわずかに後ずさる。
「……ルシ」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど低く、熱を帯びていた。
その一言で、彼女の肩がぴくりと揺れる。
伸ばした指先が、レースの縁をなぞった。
指先に伝わるのは、布越しの体温と、今にも壊れてしまいそうなほど繊細な生地の感触。
レース越しの肩口に唇を近づけると、かすかに甘い香りが鼻をかすめる。
「……こんなの、見せられて我慢できると思う?」
囁く声が、互いの吐息に溶けていった。
***
ルシフェリアは、今日の為に選んだ下着を身にまといながら、ある決意をしていた。
この間、足腰立たなくなるまで気持ちよくしてもらったんだから――お礼をせねば、と。
(そう……ついに、あれに挑戦してみようと思う)
じりじりと距離を詰めてくるティオ。
その視線に背筋がぞくりと震えたけれど、私は一歩、踏み出した。
彼を、そのまま勢いよく押し倒す。
「……え?」
覆いかぶさるようにして、唇を重ねた。
「ねぇ、ティオ様――覚えてますか? 私が、舐めてみたいって言ったの」
「えっ!?」
目を丸くするティオの声が、わずかに上ずる。
唇を離し、耳元で囁く。
「気持ちよくなって」
そう告げた瞬間、私は迷いなくその首筋へと口づけを落とした。
首筋に舌を這わせた瞬間、耳元で「……っ、ん……」と掠れた声が漏れる。
震えるその音が、私の胸の奥をじんと熱くさせた。
(……やっぱり可愛い)
ゆっくりと舌を下へ滑らせるたび、ティオの吐息が熱を帯びていく。
「は……っ、ルシ……」
名前を呼ぶ声が、少し切なげに揺れた。
お腹の筋肉の隙間を縫うように舌を這わせると、小さく噛み殺したような声が零れる。
その反応を味わうように、さらに下へ――。
腰骨のあたりまで来たときには、我慢しきれない熱が先端から滲み出ていた。
「……ティオ様、前”ダメ”って言ってた割に、期待してるんですね」
意地悪く囁きながら、内腿をゆっくりと撫でる。
鼠径部に舌を這わせた瞬間、「……っ……!」と短く息が詰まる音が響いた。
腰がわずかに逃げようと動くが、私はすかさず追いかけ、舌先でその周囲をなぞった。
(やばい……間近で見ると、やっぱり迫力ある……!ほかに比べる対象なんてないけど……大きい!)
ごくりと喉が鳴る。
鼓動が速くなっていくのを感じながら、必死に気持ちを落ち着けた。
(恥ずかしいけど……ちょっと、ぺろってしてみよう)
そっと顔を近づけ、先端に舌先をちろっと這わせた瞬間――。
「っ……! あ……っ!」
ティオの体がびくんと大きく跳ねた。
その反応に、胸の奥で何かが弾ける。
(……やだ、反応かわいすぎる! もっとやりたい!!)
思わず笑みがこぼれ、舌先でまた小さくなぞると、ティオの息がさらに乱れていく。
シーツを掴んで肩を震わせるティオの姿が、たまらなく色っぽい。
その吐息ひとつひとつが、私まで熱を帯びさせてくる。
「ま、待って……っ、ルシっ……ん」
のぼせるような感覚の中、舌先でぺろぺろとくまなくなぞり続ける。
(ドキドキするけど……よし、もうちょっと思い切ってやってみよう……)
意を決して、ぱくりと口に含んだ。
「……っ!」
ティオの腰が大きく反応する。
「んんっ」
けれど――大きすぎて、すぐに口いっぱいになってしまい、ぱっと離してしまった。
息が詰まって咳き込みそうになる。
その途端、ティオの腕がすぐに回ってきて、ぐいっと上へ引き上げられる。
「……っ、ルシ!ごめん」
腕の中で優しくよしよしと頭を撫でられ、胸の奥がきゅうっと締め付けられるように熱くなった。
「……すごく気持ちよかった。けど、ルシが苦しい思いをするのは嫌だ」
少し潤んだ瞳でそう告げられ、胸がきゅうっと締め付けられた。
(……可愛すぎる……無理……!)
頬が熱を持つのを感じながら、思わず口を開く。
「……でも、ティオ様が気持ちよくなってる姿……めちゃくちゃえっちで興奮しました……もう、私もすごいことになってるんです」
次の瞬間、ティオの腕の力が強くなり、背中がベッドに押し倒される。
「次はルシの番、ね」
覆いかぶさってきたティオの手が、ふと私の腰のあたりで止まる。
視線が下へと動き、レースの隙間を覗き込んだ。
「え……これ、なに……?」
「ふふ、これ、そういう風に作ってあるんです。……これが言ってた例のえっちな下着です」
さらりと解説すると、ティオの瞳が一瞬で見開かれる。
「でも、ティオ様、明日もお仕事だから……ほどほどにしましょうね?」
そう釘を刺したつもりだった。
――なのに。
彼がゆっくりと顔を上げたとき、その表情は明らかに“絶対すぐには終わらない”と語っていた。


