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60話 思いがけない影響力に戸惑う侯爵令嬢、転生先で見つけた未来

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 思いがけない影響力に戸惑う侯爵令嬢、転生先で見つけた未来 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!


ティオ様の別邸で一夜を過ごし、朝になれば彼を見送って自室へ戻る。
――それは、もはや日常の一部となっていた。

今日も自室に戻ってソファに腰かけたところで、セシルが封筒を抱えて入ってくる。

「お嬢様、式典の後からご招待状が何通か届いております。それと――こちらには、プレゼントも一緒に届きました」

「プレゼント?」

差し出された小さな包みと一緒に渡された封筒には、綺麗な筆跡で“ルシフェリア・ミルフォード様”と記されていた。

――アデライド・エルディア
差出人の名を見て、ルシフェリアの脳裏にぱっと赤髪の少女が浮かぶ。

(あぁ、あの赤髪のツンデレ令嬢か!)

最初はやや刺々しかった彼女の態度を思い出し、ルシフェリアは口元を緩めた。
封を切ると、几帳面な文字で綴られた手紙が現れる。

『この前は、式典で無礼があったこと、お詫び申し上げます。改めてお礼も兼ねて、お菓子を贈らせていただきました。もしご都合が合えば、次は我が家へお越しいただけますと幸いです。 アデライド・エルディア』

手紙を読み終え、包みを開くと、可愛らしい焼き菓子が入っていた。
繊細なクッキーやシュガーがけのビスケットが並んでいて、ルシは思わずふふっと笑う。

「……わかりやすいツンデレ……セシル、すぐに返事書くからちょっと待ってて」

アデライドへの返信を書き終えると、ルシフェリアは封蝋を押してセシルに手渡した。

「お茶会、楽しみにしてますって伝えておいて」

「かしこまりました、お嬢様。……侯爵様と奥様が後で一緒にティータイムをしたいとのことでしたよ。」


そう言って私の身支度を整えると、セシルは静かに頭を下げて出ていった。



***


テラスに出ると、昼前のやわらかな陽射しが差し込んでいた。
すでに両親が並んで腰掛け、仲睦まじくお茶を楽しむ姿があった。
母は穏やかに笑い、父は時折冗談を交えて、二人だけの小さな世界を築いている。

私も自然と足取りをゆるめ、静かにその輪に加わった。

「ごきげんよう、お父様、お母様」

「いらっしゃい、ルシフェリア。今日も愛らしいわね」

「元気そうでなによりだ」

ごく自然な挨拶を交わし、席に着くと、紅茶の良い香りが風に乗って鼻をくすぐった。
穏やかな気持ちでカップに手を伸ばそうとしたところで、父の快活な声が響いた。

「ルシフェリア! お前の考案したドレス、大人気らしいぞ!」

「……はい?」

あまりにも予想外の言葉に、ルシフェリアは手を止めたまま固まった。
目をぱちぱちさせながら、まるで聞き間違いでもしたように父を見つめる。

「いやな、ドレスサロンに問い合わせが殺到してるらしい。お前が着ていたあのドレスだ。『同じ形のものが欲しい』と注文が何十件も入ってるそうだ」

「……え、そうなんですか?」

式典当日は一部の令嬢たちに”コルセットしないなんてウエストが太く見える”といった声があがっていたのを、しっかりとルシフェリアは覚えていた。

(フォローしてくれた令嬢もいたけど、結構ひそひそ話聞こえたけどな……)

内心の声がついこぼれそうになる。
けれど紅茶を口元に運びながら、心の中で小さく笑った。


(あの令嬢たちの言う通り、本当は羨ましかったってことかな?……さすが貴族社会だわ)


父はご機嫌な様子で身を乗り出して続ける。

「見返りを求めて後援している訳ではない。だが、後援しているサロンが名声を高めるということは、ミルフォード家の名声も高まる。しかもそれがルシフェリアの考案となれば……いやぁ、父として本当に誇らしい」

「え……いやあの……そんなつもりで作ったわけじゃないんですけど……」

「ふふ、あなたは気づいていないだけで、いつも誰かを幸せにしているのよ」


口元をおさえて笑う母と、豪快に語る父。


(……いやいや、私があのドレスを作ったのなんて……式典できつい思いしない為にと、ティオ様と”お楽しみ”するためだったのに……)


一人で何とも言えない感情になっていることなどお構いなしに、父は話を続ける。

「それに、サロンが繁盛すれば仕立て屋や生地業者も潤うだろう?」

父はまっすぐこちらを見据え、微笑みながら言葉を重ねた。

「運ぶ人々の仕事も増える。ひいては領地に暮らす者たちの生活が安定する。……お前のしたことは、そういうふうに広がっていくんだ」

思いがけない父の言葉に、私は目を瞬かせた。
短絡的にしか考えていなかったことで、まさかそんな影響を及ぼすとは思っていなかった。
ぽかんと口を開けたまま、どう返せばいいのかわからない。

でも――胸が温かくなって、少しだけ頬が緩んだ。

「……よくわからないけど、誰かのためになったなら、よかった……です」


ぎこちなく笑いながらも、前向きな気持ちが溢れてくる。


(私って、単純……?でも――)


よくわからないなりに、もう少し勉強してみてもいいかも。
そう思った瞬間、昼前の風が、いつもより心地よく頬を撫でた。


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