数日後――。
癒術理院の一日の業務を終えたティオは、研究室に散らばった書類を慌てて片づけていた。
「……今日は早く帰らないと」
いつもなら夜遅くまで研究を続けるのに、この日は時計を何度も確認している。
白衣を脱ぐ手も、どこかそわそわと落ち着かない。
(……足腰が立たなくなるまで、か)
あの日、笑いながらそんなことを言ったルシは、すぐに目を閉じて寝息を立てた。
けれど、こっちは一睡もできなかった。
あの声も、熱を帯びた頬も、全部鮮明に焼きついて離れない。
(問題は──何回も、できるのかどうか……)
急いで帰宅すると、部屋の空気を入れ替えて、ルシが好きな香りの茶葉を選んだ。
(……いや、落ち着け。これはただの歓迎準備だ)
***
ルシフェリアは護衛と別れて、別邸の扉を開けた。
ぱたぱたとすぐにティオが駆け寄って来て、無言で抱きしめられる。
息を付く間もなく、唇が重なった。
「……ティオ様?」
驚いて名前を呼んでも、返事の代わりに唇がもう一度重なる。
いつもは、手を繋いで眠ろうとか、今日はぎゅっとする日だとか──そんな優しいスキンシップを好む人なのに。
何か、今日は……熱い。
(もしかして……『足腰立たなくなるまで』って言ったの、効いちゃった……!?)
背中を撫でる手が、服越しでも熱を帯びている。
見上げれば、息がかかる距離で、彼が静かに笑っていた。
***
玄関での熱い口づけから、気づけばあっという間にベッドに降ろされていた。
ゆっくりと覆いかぶさってくるティオ。
下半身に視線をやると、服の上からでもはっきりわかるくらいに熱を帯びている。
その状況でも律儀に、低い声で問われた。
「ルシ……いい?」
胸がきゅんと鳴る。
「……本当に、足腰立たなくしてくれるんですか?」
「……後悔しない?」
頷く代わりに、私はそっと首に腕を絡め、自分から唇を重ねた。
その瞬間、ティオ様の腕に力がこもる。
それを皮切りに──二人の長い夜が始まった。
額、こめかみ、頬、唇──熱い口づけが順番に降りてくる。
喉元から鎖骨をゆっくり辿り、胸のすぐ下で唇が止まった。
そこに触れてほしいと、自然に呼吸が浅くなる。
「……っ」
お腹の柔らかな線を、指先と舌先がなぞるたび、微かな声が漏れる。
甘くて、くすぐったくて、それでも足りない。
腰骨にキスが落ちる。
体がぴくんと反応するけれど、そのまま指は太腿へ。
「……んっ、や…」
内腿をゆっくり撫でられ、唇が奥に近づく。
期待して、思わず背筋が震える。
けれど、触れるかと思えば、またすっと外へと離れる。
「……っ、やだ…」
焦らしに焦らされて、喉から切なげな声が漏れる。
「……ティオ様、もう、触って」
返事の代わりに、私の顎を指先でなぞり、穏やかに笑う。
「……後ろも、じっくり見せて」
そう言って、くるりと四つん這いにさせられる。
姿が見えない分、首筋に唇が触れるだけでいつもより反応してしまう。
「あっ……んんっ……」
髪をかき分けられ、うなじから肩、背中の真ん中へ──舌と唇がゆっくり、ねっとりと這っていく。
「……すごく、綺麗」
低い声が背中に落ちるたび、皮膚の奥が熱を帯びていく。
四つん這いになった背に、彼の体温が覆いかぶさるように重なってくる。
背中から胸元へと伸びた手が、柔らかな膨らみをゆっくり撫で、指先で円を描くように弄んだ。
「……っ、あ、ん……」
摘まんでは離され、優しく撫でられる。
じわじわと熱だけが胸に溜まって、下腹がきゅうっと疼くのに――そこには何も触れてこない。
(やだ……これじゃ、もどかしすぎて……っ)
うずうずと堪えきれず、腰が小さく揺れてしまう。
触れて欲しい場所を探すように、もじもじと動くたび、彼の吐息が首筋に落ちて、ますます熱が高まっていった。
そして胸を包んでいた指が離れた──と思った瞬間、もっと下、敏感なところへ熱が触れた。
「……っ、あっ……!」
腰がびくんと跳ね、思わず声が漏れる。
胸と同じく、すぐには深く触れず、外側をゆっくりなぞる。
「……ん、あ……っ、や、あ……」
息が詰まり、声が途切れ途切れになる。
指先が、じわじわと奥へ近づく。
さっきまで胸を責められていた余韻が、下へとつながっていくみたいで──体の奥まで甘くしびれる。
「……だめ、これ……っ、きもち……っ」
腰が勝手に揺れて、触れてくる手に縋るように押し付けてしまう。
「もっと、欲しい?」
「……ほしい……っ」
自分でも驚くほど素直な声が出る。
次の瞬間、的確に敏感な場所をとらえられた。
「あっ、あぁ……っ、や……っ」
二つの快感が重なり、頭の中が真っ白になる。
何度も、何度も同じところを撫でられ、腰が抜けそうになるのを必死に支える──けれど限界は一瞬だった。
「……あぁぁっ」
全身が痙攣し、熱い波が一気に押し寄せる。
絶頂の余韻で息も絶え絶えのまま、背中に覆いかぶさる体温を感じる。
耳元にかかる熱い吐息──そして首筋へ、甘く吸い付くようなキス。
「……っ、あ……」
敏感になった肌に、柔らかな感触がじわりと広がり、膝からまた力が抜ける。
首筋を舌でなぞられながら、下の方もゆっくりと撫でられる。
「……や、あ……っ」
さっきよりも小さな動きなのに、反応は何倍も強い。
腰が逃げそうになるのを支えられ、首元に落ちるキスでさらに力を奪われていく。
「……また、きちゃう……っ」
「うん、いいよ」
許しの声に背中を押され、一気に波に飲まれる。
「あぁ……っ」
二度目の痙攣が全身を駆け抜け、力が完全に抜けた。
ぺたりとうつ伏せに崩れ、肩で息をする。
そんな私の耳元に、低く落ち着いた声が囁いた。
「……ルシ、まだ、これからだよ」
ぞくりと背筋を走る予感と共に、腰を包む手がまた動き出した。
「……このまま、入れるよ」
シーツに頬を押しつけたまま、背中からのしかかる彼の重みを受け止める。
ゆるく持ち上げられた腰に、彼の熱があてがわれ――浅く、入口だけをなぞるように押し入ってくる。
「……っ、ん……!」
奥までは届かない。
でも、そのたびに敏感な場所ばかりを擦られて、身体の奥がじんじんしてくる。
浅い刺激だけで、まるで焦らされているみたいに、もどかしさが募っていった。
思わずシーツを握る手に力が入る。
堪えきれずに肩を震わせた瞬間、背後から注がれる視線に気づいた。
ティオは何も言わず、ただ腰の角度をわずかに変え、そのまま奥へと押し付けて来た。
「あっ……そこ……んんっ」
同じ場所を浅く、何度も擦られて意識がとろける。
やがて、支える腕に力がこもり──一度だけ深く踏み込まれた。
「ああぁっ……!」
視界が白く弾け、一瞬息が止まる。
重みで腰がベッドに沈み、軋む音が耳に混じる。
逃げられないほど深く突き込まれて、全身が震えた。
けれど──耳元で落ちた声は、甘くも鋭い。
「……ルシ、自分だけイって満足したの?」
「……え……?」
「僕はまだ、足りないんだけど」
次の瞬間、腰をぐいっと持ち上げられ、前のめりに押される。
背中を反らされるようにして、お尻が高く突き出され──
「あっ……」
ずんっと深く、一気に貫かれる感覚に声が跳ねた。
先ほどまでの浅い優しさはもうない。
腰の奥まで届くたび、頭の中が真っ白になっていく。
「……まだ、終わらないから」
低い声と共に、さらに深く、容赦なく突き上げられた。
深く入り込むたび、喉から勝手に声が零れる。
「あっ……あぁっ、や……っ」
腰を支える手が逃げ場を与えてくれず、強い衝撃が奥まで届く。
耳元で、小さく息を呑む声がした。
「ぁ……っ、ルシ……」
低く甘いその声が背筋を震わせる。
互いの吐息が混じり合い、熱がどんどん高まっていく。
「……もっと……っ」
素直な声が漏れた瞬間、動きがさらに速く、深くなる。
腰の奥を何度も突かれ、全身が熱で痺れる。
「あっ……あぁ……ティオ……さま……っ」
「……ルシ……もう……んっ」
背中越しに伝わる彼の熱と、震える声。
その一瞬後、奥まで深く押し込まれ、彼の体が強く震えるのを感じた。
最後の衝撃の余韻を抱えたまま、後ろからぎゅっと強く抱きしめられる。
そのまま二人で横に崩れ、背中に彼の胸板の温もりを感じる体勢になる。
耳元に顔を埋められ、くすぐったい吐息と共に囁きが落ちた。
「……はぁ、はぁ。ルシ、きつくなかった?」
いつでも私の体を気遣う姿に、心臓がきゅっと鳴りつつ、二人で荒い息を整える。
「はぁ……気持ちよかったです……というか、さっきのえっちな体勢なんですか!?」
興奮の余韻そのままに騒ぐ私に、背後から低い笑い声が重なった。
「あはは……まだ元気だね?」
ぞくりと背筋を走る気配に、思わず息を呑む。
「え……?」
その笑顔が、夜はまだ終わらないと告げていた──。


