セレナは、本当に強くなったと思う。
もともと、境遇に負けず心優しくて、芯の強い女性だった。
けれど今はそれだけじゃない。
どんなときも顔を上げて、自分にできることを探して、まっすぐに前へ進んでいく。
家族から名前を呼ばれることなく育ったというのに、俺の家族の話に目を潤ませ、大切そうに耳を傾けてくれた。
きっと、想像もつかないほど辛い思いをしてきたはずなのに――
彼女は恨まない。
ただ今の幸せを、まっすぐに、迷いなく選んでいる。
果たして俺に、同じことができただろうか?
常に、誰かのために何かを与えることばかり考えている彼女。
――だからこそ、俺も自然と「力になりたい」と思うんだ。
「さっき、執務室に戻ってアレクに証拠提出を頼んできたよ。あとは正式な手続きを待つだけだ」
「……ありがとう。領地の人たちが困ってるなら……早い方がいいよね」
「うん。君の判断が正しかったって、きっと皆も思うよ」
そっと、彼女を抱き寄せる。
この温もりを、絶対に守り抜こうと思った。
「もう、あの人たちに情は残ってないよ。……ほんの少しだけ、心の奥に引っかかってたけど。レオンがすぐに動いてくれたから……少し、気持ちが軽くなった。ありがとう」
(……きっとそれでもセレナは厳罰は望まないんだろう。)
「……君の前に現れることがないように、あちらには注意を促しておくよ」
彼女は小さく頷いた後に、俺の胸に顔を埋めたままそっと呟く。
「……もっと、ぎゅってして?」
「……セレナ」
潰れないように、優しく、でもぎゅっと抱きしめなおした。
セレナが顔を上げると、その視線がぴたりと重なる。
レオンはそっと、セレナに口づけを落とした。
彼女の匂い、ぬくもり、心音。すべてがたまらなく愛しい。
何度も啄むようにキスを落とす。
寝室の空気が熱くなってきた、その時ーーセレナがぷいとそっぽを向いた。
「……レオンの、ばか」
小さく聞こえたその声に、レオンは瞬きをする。
「……え?」
「……この前、“入れて”って何回お願いしても、なかなか入れてくれなかったのまだ根に持ってるの……。意地悪だった」
そう言いながら、顔を真っ赤にするセレナ。
(……可愛すぎる……)
「ごめんね、セレナ。可愛すぎて、つい意地悪したくなった」
「……もう知らない」
背中を向けようとする彼女を、ぎゅっと後ろから抱きしめる。
そのままベッドに倒れ込み、ごろごろと揺らす。
「許して?」
「……んー、どうしよっかな」
「じゃあ――こうするのは?」
ちゅ、ちゅっ、と何度も頬にキスを落とす。
頬を赤くしながらも、セレナは満更でもない様子で小さく笑った。
(でも……目を潤ませながらおねだりされるの、たまらなかったな)
ふとそんな記憶がよみがえってきて、気づけばレオンの指がセレナの頬をなぞっていた。
「ねぇ、セレナ……また、やりたい」
「っ……もうっ!!」
セレナは真っ赤になって、レオンの胸をぽすぽす叩く。
くすぐったくて笑い合いながら、再び絡まるように抱き合って――
(……可愛い。もっと色んな顔を見たい……)
もぞもぞとシーツの中で身体をよじって、セレナが俺の胸元に顔を埋める。
くすぐったくて、嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
「セレナ」
「……なに?」
「……好き、大好き」
そう囁くと、彼女の背中がぴくんと跳ねた。
「……私も、レオンの事、大好き……」
ぽつりと呟かれた声が、胸の奥まで沁みる。
「もっと、触れてもいい?」
耳元で囁くように聞くと、セレナはこくりと頷いた。
そっと髪を撫で、首筋にキスを落とす。
そのまま、肩、鎖骨、胸元へ。
ゆっくりと辿っていく。
「……ん……っ……レオン、くすぐったいよ……」
身体をきゅっとすぼめるセレナを見て、思わず微笑んだ。
「可愛い」
「……もう、また意地悪する……」
すねたふりして顔を隠すセレナに、そっと頬を寄せる。
「……今日は、すっごく優しくするから」
「……え?」
耳元で囁くとあのとろけそうな空気が、ゆっくりとふたりを包み始めた。
「ね?……もう意地悪しないから」
そっとセレナの頬に触れて、囁くように言う。
向かい合っていた身体をゆっくりと前に倒し、彼女の上に覆い被さろうと――
した、その瞬間だった。
「――レオン」
セレナがふわりと身を起こし、逆に俺の肩を押してきた。
力加減も絶妙で、そのまま柔らかな身体に押し倒される形になる。
「えっ――」
ぐい、と軽やかにベッドに沈んで、仰向けにされる。
至近距離で見下ろすセレナの瞳は、いつになく自信に満ちていて――
その唇が、にこっといたずらっぽくほころぶ。
「……次は、私の番」
「……っ……!?」
ぽかんと口を開けたまま、反応が追いつかない。
心臓が跳ねる。
頭の中が一瞬で真っ白になる。
(……ま、まって、それってつまり――)
さっきまで俺がからかってたはずなのに。
意地悪して、翻弄してたのは――俺のはずなのに。
なのに今は、完全に主導権を奪われてる。
あろうことか、セレナの笑顔を前にして――
俺の方が翻弄されてる。
(……今、絶対、耳まで赤くなってる……)
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