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68話 癒しの手、再び――公爵邸で始まる新たな日常

絶倫すぎるんです、公爵様・・・っ!セレナ、レオン、癒しの手、再び――公爵邸で始まる新たな日常(公爵家 癒し 使用人) 絶倫すぎるんです、公爵様…っ!


それからと言うもの、私は忙しい日々を送っていた。

早朝は軽いトレーニングから始まり、週に二度はリュシアンとの授業で領地経営や帝国の歴史を学ぶ。
公爵家の雑務も少しずつ任されるようになり、夜はもちろん、レオンと甘い時間を過ごして――

……最近はそれに加えて、“社交界デビュー”の準備も始まっていた。

レオンは「出なくてもいい」と言ってくれるし、私自身もにぎやかな場所が得意なわけではない。
けれど、もうすぐ“建国祭”が開かれると聞き、リナやミアさんの助けを借りながら、ドレスの仕立てや所作の見直しを始めたところだった。

そしてレオンの勧めで――彼のお父様の妹、つまり叔母にあたる方からも、所作や立ち居振る舞いについてのレッスンを受けることになった。

彼女はかつて、公爵家の令嬢として名を馳せ、現在は侯爵家へと嫁いでいるという、まさに“皇都の社交界を知り尽くした人物”。

(そんな方に……教わるなんて、大丈夫かな、私……)

ーー実際には、厳しさの中にも洗練された品と余裕があって、

「貴族令嬢としては遅咲きね。でも、芽が出たばかりの蕾ほど、美しく咲くものよ。その容姿なら、きっと――どんな場所でも目を引くわ」

と、少しだけ微笑んでくれたのが、なぜかとても嬉しかった。



「セレナ様、今日もすっごく綺麗でしたよ~!」

お茶の時間。
今日のレッスンを端で見ていたリナは目を輝かせながら、心から嬉しそうに言ってくれた。

「毎朝欠かさずトレーニング頑張ってらっしゃるから、姿勢もさらに美しくなって……まさに、公爵夫人の風格ですね」

ベルの背を撫でながら、「そうかな?」と私も思わず微笑んでしまう。


(……ミアさんに聞いて、レオンと“夜いっぱい出来るように”って思って始めたトレーニングだけど――まさかこんな形で役立つとはね……)

思わず、ふっと小さく笑ってしまった私に、リナが首を傾げてから言った。

「そういえば、ユノさん。もうすぐこちらに来るみたいですね」

「うん。連絡も来たし、もうそろそろ到着するんじゃないかな」

そんな話をしていた、ちょうど翌日のことだった――




ーー公爵邸に、別荘からユノがやってきた。


「本日よりこちらでお世話になります。お呼びいただき、光栄です」

深い紫の髪を肩の上で切り揃えた、可愛くてちょっぴりミステリアスな雰囲気の女性。
今日もその所作は完璧で、扉の前でスカートの裾をつまみ、丁寧にお辞儀をする。

「そんなにかしこまらないで、ユノ。来てくれて嬉しい」

セレナはにこりと笑い、ユノを自室へと案内した。
さっそくお茶を淹れて、久しぶりの再会をゆっくり楽しむ。

「別荘では……使用人として働きながら、マッサージも頼まれたときにやってたんだよね?」

「はい。普通に使用人として働いてたのですが……使用人仲間にやっているうちに、皆さんに噂されて……気づけば、時々お声がかかるようになっていました」


セレナは思わず、くすっと笑みをこぼす。
ユノの手は、あの日の疲れも不安も、まるごと溶かしてくれるようだったから。

「ふふっ、噂になるのわかるよ。だってほんと、気持ちよかったもん」

ユノは少しだけ目を伏せ、小さく頭を下げる。


「……恐縮です」

「ここでも、無理のない範囲で続けてくれたら嬉しいな。もし、マッサージだけに専念したいなら、治療師として駐在してもらうのも良いかなって思ってるんだけど」

ユノは一瞬目を丸くして、すぐにふわりと笑った。

「そんなお役目をいただけるなんて……ありがたくお引き受けします」

「よかった~。体調崩してる使用人もいるから、施術して欲しいなって思ってて。私からも声かけるようにするから、もしユノも気が付いたらさりげなく声かけて欲しい」

「はい。ではまず、様子を見ながら声をかけてみます」


どこか照れたように微笑むユノの姿が可愛くて、いつの間にか心をくすぐられてしまう。

「あとでアレクにも紹介しておくね。……結構疲れため込んでると思うから、気を付けて」

「ふふ、お任せください」

お互いの笑みに、静かな時間が流れる。
あの日の別荘が少しだけ蘇って――でも、それとはまた違う、新しい関係が始まりそうな予感もした。


「……あの、セレナ様」

少しだけ言い淀むように、ユノが口を開いた。

「ん?」

「いえ……お顔の色が、少しお疲れに見えましたので。お身体、無理されていませんか?」

「えっ、そんなに?……わかる?」

セレナは驚いたように目を見開き、手で頬を軽く触れる。

「別荘から帰ってから、ちょっと予定詰め込みすぎちゃってて……でも、楽しいことばかりだから、あまり疲れてるつもりはなかったんだけど……」

「楽しいこと、ですか?」

「うん。恥ずかしいんだけど、今まで領地のこと全然わかってなかったから……それを教えてもらったり、社交界の準備始めたり……知らなかったこと知れて、楽しいの」

ユノは相づちを打ちながら、やわらかな眼差しで耳を傾けていた。

「それにね、騎士団長にも協力してもらって、毎朝トレーニングしてるの。だから、最近少しずつ、疲れにくくなってきた気がする」

「それは、素晴らしいことですね。……お疲れの時はいつでも施術しますので、いつでもお呼びください」

「ほんと? うれしい、ありがとうユノ!」

セレナはぱっと顔を明るくして、思わず手を伸ばす。
ユノも少し驚きながら、その手を静かに受け止めた。

「では、こちらでも少しずつ……お力になれたら嬉しいです」


ユノはそう言って、静かに立ち上がった。
丁寧に頭を下げるその所作は、まるで上品な人形のように美しく、でもどこかあたたかかった。

(……ここに来てくれて、よかった)

思わず、胸の中でそう呟く。
たくさんの変化があった日々の中で、またひとつ、新しい風が吹き込んできたような気がした。

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