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62話 新婚旅行帰宅前日、令嬢との不思議な出会い

絶倫すぎるんです、公爵様・・・っ!セレナ、レオン、新婚旅行最後の日と不思議な出会い(マッサージ 甘い夜 出会い) 絶倫すぎるんです、公爵様…っ!



湖畔でボートを漕いだり、地元の市場でお揃いの指輪を買ったり、夜は星を見ながら肩を寄せ合ったり……
そんな穏やかで、胸がきゅっとなるような日々が続いていた。

気づけば旅も、残すところあと1日。
名残惜しさが胸を満たしながらも、ふたりの絆は確かに深まっていた。

朝のやわらかな光の中で、ベッドの上のふたりは、ごろごろとお互いにくっついたまま過ごしていた。
レオンがセレナの髪を撫でながら、ふとため息まじりに言う。

「……幸せすぎて、このまま帰りたくない」

セレナはくすっと笑い、彼の背にそっと腕をまわす。

「ふふ……ねぇねぇ、レオン疲れてない?……マッサージ、してあげようか?」

レオンは少し驚いたように目を開けたが、すぐに首を横に振った。

「セレナが疲れるから、いいよ」

その優しさに、セレナは微笑んだまま──ふふふと小さく笑った。

「……実はね、このお屋敷に、すっごいマッサージが上手な使用人さんがいてね」

「へえ……?」

レオンが首を傾げる中、セレナはふわりと目を細めて、ゆっくりと“あの時”の出来事を思い出し始めた──。

***


数日前ーー

レオンが疲れてゆっくり寝ていた日。
セレナはリナに呼び出されていた。

「セレナ様、ちょっと来てください!」

どこかそわそわとした様子のリナが、こっそりセレナの手を引く。

「実はこのお屋敷に、ものすっごいマッサージの上手な使用人がいるんです!セレナ様、お疲れでしょう? ぜひ癒されてください!」

そんな風に引き込まれるままに辿り着いた部屋。

そこに立っていたのは──

肩の上でぴたりと切りそろえられた、深い紫の髪。
大きくぱっちりとした金色の瞳、ほんの少しだけ目じりがつり上がっている。
その輝きは、まるで気まぐれな猫のように、見る者の心をさらっていく。

小柄なその女性は、丁寧すぎるほどのお辞儀をした。

「こんにちは、公爵夫人。別荘付きの使用人、グレイシア男爵家のユノと申します。お目にかかれて光栄です。どうぞ、ユノとお呼びください。」

彼女のその所作には一分の隙もなかった。
まるで舞台の人形のように、しなやかで完璧な立ち居振る舞い。

(……ミアさんとはまた違った、まるで……お人形さんみたいな人)

思わずセレナが見とれていると、リナが嬉しそうに声を添えた。

「彼女、ほんっとうにマッサージが上手なんです!セレナ様、ちょっと試してみてくださいっ」

セレナはやや戸惑いながらも微笑み、彼女に向かって言った。

「……ありがとう、ユノ。じゃあ、お願いね」

──それが、不思議な癒しの時間の始まりだった。

「どうぞ、こちらへ」

セレナはふわりと微笑み、言われたとおりにベッドに横になる。

「では──始めます」

力強くもなく、優しすぎるわけでもない。
こちらが求めている強さをまるで分かっているような力加減。

指先が僅かに沈むたび、体がほぐれていく感覚が広がっていく。

「……あぁ気持ちいい~……」

思わず、声が漏れた。
リナが言っていた“すごいマッサージ”という言葉を、ほんの数秒で完全に理解してしまう。タオル越しに伝わる熱、リズム、そして、触れられた場所から不思議と抜けていく疲労感。

(……なに、この人……)

呼吸が、知らないうちに深くなっていた。
ただ、セレナの身体の状態に合わせて、完璧な圧と速度で、全身をゆっくりと解きほぐしていく。

(……この人、ただの使用人じゃない……)



いつの間にか眠っていたようで、施術が終わるとセレナは夢見心地のままふわりと意識を戻した。
身体がまるで、湯の中に浮かんでいるように軽くて、心地いい。

「……ありがとう、ユノすごく楽になった……」

思わずこぼれた言葉に、ユノは静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。お気に召していただけて光栄です」

その所作も、やはり完璧で美しい。
セレナは、心の中に芽生えた感動を胸に、ぽつりと尋ねた。

「……マッサージのコツってあるの?ちょっとレオンにもやってあげたくて。」

すると、ユノは少しだけ考えるように目を伏せ、淡々とした口調で答え始めた。

「力で押すのではなく、ゆっくり、体重を預けるようにかけていくのが基本です」

そう言いながら、ユノは手を軽く動かして所作の再現を見せる。

その瞬間──

ふと、セレナとユノの視線が、ぱちりと重なった。

ユノの金色の瞳が、一瞬だけ揺れる。
そして、ぽつりと呟いた。

「……懐かしい」

「……え?」

セレナがきょとんと目を丸くすると、ユノはすぐに表情を戻し、頭を下げた。

「……失礼いたしました。」

何かを誤魔化すように、ユノは再び淡々とした調子で語り始める。

「やはり経験がものを言いますので……慣れるまでは“相手を想って施術すること”。それが一番大事です」

真っ直ぐに語られるその言葉は、静かで芯があり、そして確かだった。

(……そんなに年、変わらないように見えるのに……まるで長く経験を積み重ねてきた人のような、熟練の重みがある……)


セレナは、どこか切ないような気持ちで、ユノの横顔を見つめていた。

(……もしかして、苦労したのかな……?)

「……ユノ、またお願いしてもいい?」

セレナがそう尋ねると、ユノはふわりと微笑んだ。

「もちろんでございます、公爵夫人。必要なときは、いつでもお声がけくださいませ」

丁寧すぎるほどの口調と、揺らぐことのない所作。
けれど、その言葉には確かに優しさがこもっていた。

(……本当に、不思議な人)

そんなふうに思っていると、ぱたぱたと駆け寄ってきたのはリナだった。

「どうでした!? ユノさんすごいでしょ!?私も最初やってもらった時、天国かと思いましたもん!!」

「ふふ……ほんと、すごかった」


リナの勢いにセレナが笑って頷くと、ユノは静かに一礼した。

──それが、セレナとユノとの、最初の出会いだった。

***

「……っていうことが、あったの」

ベッドの上でごろごろしていた現在のセレナは、懐かしそうに目を細めながら、話を締めくくった。

レオンは、少し驚いたように目を丸くしながら聞いていたが、最後にはふっと笑って、セレナの髪に指を絡めた。

「……そのマッサージ、受けに行ってもいいけど」

「うん?」

レオンが少し顔を近づけて、いたずらっぽく囁いた。

「やっぱりセレナにしてほしいな」

「ふふ、……うん。がんばって思い出しながらやってみるね。」


レオンは幸せそうに目を閉じた。

セレナは、ユノの言葉を反芻しながら、ベッドの上でうつ伏せになったレオンの背中に、そっと手を添えた。

(……あれ?)

シャツ越しに、背中に浮かび上がる“痣”が目に入った。

(……呪いの痣が……広がってる?)

前に見たときより、滲むように広がっている。
その輪郭は曖昧で、それでいて確かに濃くなっていて――
心臓が、ぎゅっと掴まれたように痛んだ。

でも、悟られたくなくて。
何もなかったように、手の動きを止めずにいた。

(……だいぶ、広がってる気がする……)


この旅行中、あんなに幸せだったのに。
その幸せの裏で、静かに蝕まれていくような感覚が、胸に広がっていった。

(だめだ、集中しよう。……力じゃなくて、体重を……ゆっくり、丁寧に……)

──ぐっ、ぐっ……ゆっくり、ぐっ……。


「……っ、はは……セレナ、それ、くすぐったい……っ」

「えっ!? ごめんっ」

慌てて手を引こうとすると、レオンがその手を掴んで、くすりと笑う。

「……セレナの手だからかな、なんか敏感になっちゃって、くすぐったい」

そのまま、レオンが意地悪そうな笑みを浮かべて、指先でセレナの脇腹をつつく。

「きゃっ……ちょっとレオンっ!」

くすぐられて、思わず笑い声をあげる。
逃げようとするけれど、すぐにレオンに捕まって、ぎゅっと抱き寄せられる。

「逃がさないよ。だって、マッサージのお礼……返さないと」

「や、だめ……っ、くすぐった……ふふっ……!」


ふたりで笑いながら、ベッドの上で軽くじゃれ合う。

「……今度は、ちゃんとできるように練習するね」

「うん、楽しみにしてるよ。」


レオンはそう囁くと、優しく髪に口づけた。


「明日帰んだし……今日は――朝まで、離さない」

低く掠れた声に囁かれ、セレナはそっと目を閉じて頷く。


そしてその夜、レオンの言葉通り、何度も何度もふたりは愛を確かめ合った。

……夜が明ける頃には、さすがに体が動かなくなっていたけれど。
それでも、レオンの腕の中は、ずっと、あたたかかった。

――新婚旅行の最後の夜は不安を残しながらも、静かに、幸せの余韻に包まれていった。



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