浴室に足を踏み入れた瞬間、もうもうと立ち上る湯気のなか――
水を滴らせながら、髪を掻き上げるその姿。
薄く開いた唇から、余裕のある声が落ちる。
「ドレス着たままだけど……脱がしてあげようか?」
「~~~~っ!?」
ルシフェリアの頭が、一瞬で真っ白になった。
(そうだ、ティオ様見ることで頭の中いっぱいだったけど……私も脱がないとだった……っ!)
お湯の温度じゃない。
彼の視線のせいで、すでにのぼせかけている。
「い、いえっ、自分で脱ぎますっ!!」
ほぼ叫ぶように言って、脱衣所へと逃げ出す。
息を整える間もなく、扉の向こうからくすくす笑う声が聞こえてきた。
(……え、ちょっと待って。今の声……ズルくない……?)
頬が熱い。
心臓が、ずっと鳴りっぱなしだ。
(恥ずかしすぎるけど……でもじっくり見たい……!)
そして――
着ていたドレスを慌てて脱ぎ、タオルをぎゅっと巻きつけてから、小さく深呼吸。
「……ティオ様、タオルだけ……巻いても、いいですか?」
扉越しに声をかけると、湯船から聞こえたのは、甘く低い声。
「いいよ、風邪引くから早くこっちおいで」
ルシフェリアは、ごくりと喉を鳴らして。
タオル一枚をまとい、浴室にもう一度足を踏み入れた。
***
『見ないでください』と言い、手早く体を洗って湯船に浸かった。
先に入っていたティオと向かい合うように座って、ちらっと彼の体に目をやった。
(やばいやばい……腹筋割れてるとは思ってたけど、胸板も結構……)
ごくりと喉をならし、そっと手を伸ばした瞬間――
「……そんなにジッと見ないでよ」
ぱっと手を掴まれたかと思うと、そのまま後ろを向かされて、背後からぎゅっと抱きしめられた。
温かい腕と柔らかな胸元に包まれて、一瞬で体がこわばった。
「……ルシって、ふわふわしてて……ほんと気持ちいい」
そう囁かれて、ティオの頬がルシフェリアの肩にすり寄ってくる。
「……っ!」
密着してる肌から伝わる熱、肩に感じる濡れた髪の毛の質感に心臓はバクバク音を立てている。
(……ん?)
背中越しに、何かが「ぴとっ」と当たってる。
(えっ……えっ!?これって……もしかして……!?)
明らかに柔らかさじゃない硬さが、腰のあたりに感じられて。
ルシフェリアの脳内では、警報音が鳴り響く。
(当たってる……当たってるよこれ……!よく見るやつ!?ほんとに!ほんとに当たってるのってわかるんだ!!)
頭から湯気を出しそうになりながら、私は思わず振り返った。
「……ティオ様」
「ん?」
「この、当たってるのは……どういう意味ですか?……興奮してるんですか?」
ストレートすぎる質問にティオの顔がかぁっと赤く染まり――
「ちょっ、ルシ……!」
あからさまに狼狽しながらも、抱きしめた腕は緩めず、ティオはぼそっと呟いた。
「……だって、好きな人とこんなに密着してるんだもん……」
そう言ってまた私の肩に顔を埋めた。
「……私の胸のラインが出てるせいでもありますか?」
にこっと微笑みながら、わざと体を少し反らす。
タオルの下、ほんのり浮かぶ柔らかな膨らみ。
視線がそこに落ちるのを、ルシフェリアは見逃さない。
「――……っ」
ティオの喉がぴくりと動いた。
「んふふ、図星ですか?」
「……うるさい」
ぼそりと呟いた次の瞬間、ふいに、その耳に、唇が触れた。
「……っひゃ……」
濡れた唇が、そっと触れて、形をなぞるように優しく押し当てられる。
その温もりと、吐息まじりの感触に、ルシの体はびくっと震えた。
(な、なに今の……反則……っ)
まるで「仕返し」のような、でも甘くて優しいキス。
耳たぶにそっと、唇が触れた。
ちゅ、ちゅっ…と、形を確かめるように何度も優しく吸われて。
そのまま首筋にも唇が移って、体が小さく震える。
「ん……っ、あ、んんっ……」
肩を抱かれて、身動きできないまま、キスのたびにぴくぴく反応してしまう体が恥ずかしい。
「……タオル、外してもいい?」
濡れた髪を揺らしながら、低く囁かれた声に、びくりと肩が跳ねる。
でも――
「……だ、だめです……っ」
なんとか首を横に振ると、ティオは小さく笑った。
「……わかった」
それだけ言って、彼はタオルを外さずに――
タオルの下から、手を忍ばせた。
(えっ、ちょ、ま、まって……っ)
すでに水を吸ったタオルは、肌にぴたりと張り付いていて、少しでも動かされると感覚がすぐ伝わる。
それに、下から伸びる彼の指の動きが、タオル越しにはっきり見えて――
指先が、ゆっくりと腰のあたりからお腹へと這い上がってくる様子が、視覚的にも感覚的にも伝わってくる。
「……んっ……」
恐る恐る視線を下げると、タオルは濡れ、胸元にぴったりと貼りついていて、尖った先端が、はっきりと主張しているのがわかる。
(や……そんなの、見ないで……っ)
自分の体なのに、あまりにも艶かしくて――思わず目を逸らしたくなる。
でも、ティオの手はその布の“隙間”を縫うように、水の膜を押しのけて、胸へ向かって伸びてくる。
指の軌跡をなぞるように、タオルの表面がわずかに盛り上がって、
「……ルシ……」
名前を囁く声が、やけに甘くて、優しくて。
それだけで頭が真っ白になりそうだった。
(ティオ様の手も張り付いてて、えっちすぎる……っ)
タオルの下――
じわり、じわりと、彼の手が胸の丸みに沿って這うたびに、喉からかすかな声が漏れる。
「っ……は、ふ……あっ……」
布越しに、指先が敏感な部分の周辺をなぞると、濡れたタオルはひく、と微かに波打った。その瞬間だった。
張りついていた布が、重力と水の重みで、ずるりと滑り落ちる。
「――っきゃっ……!」
反射的に腕で胸元を隠そうとすると、その前にティオの手が、そっと私の腕を取って――
そして、耳元で、いたずらっぽく囁く。
「……タオル、取れちゃったね」
熱を孕んだ声に、心臓が跳ねる。
(……ずるい……っ)
ささやきの余韻に耳が焼けそうで、何もかも見られてしまって――
体はどんどん熱くなっていくばかりで。
「……綺麗」
その優しい言葉に、余計に胸がぎゅっとなって、何も言えずにただ、目を伏せることしかできなかった。
「ルシ、こっちむいて」
振り返ると、そっと唇が重なる。
優しく触れるだけのキスだったはずが、ルシフェリアがかすかに唇を開いた瞬間――
舌が絡むように深くなっていく。
「ん、っ……ふぁ、ん……」
お湯の音に混じって、唇から艶やかな音が響く。
背中に回された腕。
肌と肌がぴたりと触れ合って――
もう、何もかもが熱い。
「っ……ティオ様……」
夢中で唇を重ねていると、視界が少し、ふらっと揺れる。
「あれ……なんか……あつ……」
「ルシ?」
「……のぼせ……たかも……」
「――上がろうっ!」
ティオが焦ったように抱き上げて、浴槽から引き上げてくれる。
そのまま、湯気の中をふわっと横抱きにされて、頬をぴったり額に寄せられて――
「……ごめん、可愛くてつい……」
低い声が、妙に優しくて、その響きにまた心臓が跳ねる。
彼の腕に身を任せて、二人で浴室を後にした。


