ある夜。
寝室のカーテン越しに、淡い月明かりが差し込んでいた。
ふたりきりのベッド。
ぴたりと寄り添うように、静かに並んでいる。
セレナは、そっとレオンの手を握った。
指先を絡めるだけで、心まであたたかくなる気がする。
レオンも何も言わず、ただ優しく手を握り返してくれた。
――私は、レオンに救われた。
そう思ったのは、何度目だろう。
孤独だった日々、誰にも必要とされなかった自分。
でも今は――こんなにも、誰かに大切にされている。
優しく手を握ってくれる、あたたかい温もり。
私のことを、ただ”セレナ”として愛してくれるレオン。
(……私も、力になりたい)
そう、心から思う。
レオンの力になりたい。
彼を癒したい。
そんな想いを抱えながら過ごしたここ数日――
体調を崩した私を気遣って、レオンは”禁欲生活”を続けてくれていた。
ふたりきりで過ごす夜も、手を握るだけ。
キスや、抱きしめ合うだけで、彼はそれ以上求めてこなかった。
(……でも、本当は我慢してるんだろうな)
レオンは、後ろから優しくセレナを抱きしめたまま、彼女の額にそっとキスを落とし、「おやすみ」と囁いた。
セレナが眠るまで、静かにそのぬくもりを伝え続けるように。
セレナはもぞもぞと身じろぎをし、より彼に密着した。
脚を重ね、背中を預けるようにぴたりと寄り添う。
決意したように、そっと彼の名前呼ぶ。
「……レオン」
「……ふふ、甘えてるの?」
そう言うと、柔らかく髪の毛にキスをし頭を撫でてくれた。
「……ぎゅっとして。」
レオンは少しぴくりと肩を動かし、力強く抱きしめた。
けれど、それ以上のことはなく――
セレナは胸元でそっと指を絡め、かすかに息を呑んだ。
(……気づいて、くれない……)
ほんの少し、勇気を出して。
彼の手をそっと探り、指先に触れた。
すべすべとした関節を、なぞるように撫でる。
何気ないふうを装いながらも、指先には淡く熱が宿っていた。
レオンは一瞬、呼吸を止めたように動きを止めたが――
やがて静かに、セレナの手を包み込むように握り返した。
やるせなさと、ほんの少しの寂しさが胸をよぎる。
それでも――伝えたくて。
握られた彼の手を、そっと持ち上げ、唇を寄せる。
柔らかなキスを落としながら、囁くように呟いた。
「……レオンが、欲しいの」
か細く、けれど確かな意志を秘めた声で呟く。
レオンが少し固まったのが背中で感られた。
「……体調大丈夫?まだ本調子じゃないでしょ……?」
「……レオンに……触って欲しい」
セレナが恥ずかしそうに告げると、レオンは何も言わずに――
そっと耳元に唇を寄せてきた。
熱を帯びた吐息がふわりと肌を撫で、震えそうになるほど近くで囁く気配がする。
――次の瞬間。
やんわりと、けれど逃げられない力加減で、耳たぶを甘く噛まれた。
「……んっ……!」
びくりと肩が跳ねて、腰が引けそうになる。
けれどレオンの腕がぴたりと背中を押さえつけるようにしていて、逃げ道はない。
噛んだあと、彼の舌が、ぬるく耳の内側をなぞる。
くちゅ、という水音がくすぐったさと熱を連れて耳の奥に入り込み、思わず体がきゅっと強張った。
「……ここ、気持ちいいの?」
レオンの低く甘い声が、唇と一緒に耳に直接流れ込んでくる。
「や……ぁ、ん……っ、そこ、だめ……っ」
恥ずかしさと快感に混じった声が、セレナの喉から震えるように漏れた。
(……だめなのに……レオンの声だけで、変になりそう……っ)
膝が震えて、太ももが擦れ合う。
腰のあたりが熱を帯び、じんわりと、疼くような感覚が広がっていく。
セレナが震える息を漏らすと、レオンはもう一度、彼女の耳を甘く噛み――
今度は首筋へと唇を滑らせた。
「レオン……っ、く、首は……っ」
弱いところを的確に攻められ、思わず声が上ずる。
ぬるりと舌が這い、吸い付くようにそこをなぞられる。
(あ……レオンの……)
背後に触れた彼の熱――
それが、自分の腰のすぐ下に、確かにあった。
意識した瞬間、セレナの体は自然と動いていた。
押し当てるように、ゆっくりと、彼のそれに腰を擦りつけてしまった。
「っ……セレナ……もう、抑えきれない」
レオンは小さく呟くように息を吐き、セレナの胸へと手を滑り込ませた。
柔らかさを確かめるように、優しく揉み上げながら、もう片方の手が、下腹から太ももへとゆっくり這っていく。
「……っ、ん……ぁ……っ」
腰のあたりにレオンを感じ下腹が熱く疼き、擦れるたびにじん、と刺激が広がる。
薄布越しでもはっきりと伝わる硬さに、身体の奥がじわりと濡れていくのがわかる。
(だめ……っ。こんな、私……)
止めようとするのに、腰はゆっくり前後に動き続けていた。
レオンの吐息が荒くなり、声にならない声が漏れていた。
「っ……セレナ……それ……わかっててやってる?」
耳元に囁かれるその声に、恥ずかしさが込み上げる―
けれど、それ以上に、もっと触れてほしい気持ちが溢れて止まらなかった。
「あっ……そんなことっ……言わないで……んっ」
セレナの腰の熱を感じたレオンは、そっと手を滑らせ――
ゆっくりと、下腹部へと触れた。
ぴくん、とセレナの体が跳ねる。
「……んんっ……」
すでにじっとりと湿った薄布の上から優しくこすり上げられ、びくりと腰が動く。
「んっ……セレナ……」
押し殺したような声が、レオンの喉奥から漏れた。
セレナは恥ずかしさに顔を伏せながらも、震える声で囁いた。
「……もう……欲しいの、レオン……」
その一言で、レオンの理性は完全に崩れた。
セレナの腰を抱き寄せ、後ろからそっと身を重ねる。
濡れた下着を指でずらし、彼の熱が――
そっと、けれど確かに、彼女の中へと沈んでいく。
「ん……ぁ……っ」
セレナの喉から漏れた声が、甘く震えた。
ゆっくりと、奥まで。
ようやく、身体も心も、ひとつになった――
「レオンっ……んぁ、っ……!」
最後まで中に入って来た瞬間背中まで甘いしびれが昇ってきて、自然と声が漏れる。
「あっ、ん……んっ」
彼の熱が奥を擦り上げるたび、きゅんと下腹部が疼く。
腰を引かれ、また押し込まれるたびに、いやらしい水音が、肌と肌の間に生まれる。
ぐちゅっ、ぐちゅっ……っ
淫靡な音が、ふたりの間だけに響いて、耳が熱くなる。
「……もっと、セレナの声、聞かせて」
レオンが甘く命じるように囁きながら、わざとゆっくり、深く突き上げてくる。
「やっ、あっ……んんっ……!」
声を抑えようとしたけれど、ダメだった。
喉の奥から、甘くとろけた声があふれてしまう。
レオンの動きは次第に熱を帯び、理性を削ぎ落とすように激しくなっていく。
「セレナ……っ、もうだめ……」
「あっ、レオン……っ、私も……っ」
何度も、何度も、深く奥まで突き上げられて、セレナの身体はびくびくと跳ねた。
ぴたりと重なったまま、ふたりは同時に、快楽の波に飲み込まれていく――。
熱が絡み合い、蜜が溢れ、セレナの奥から零れる音が、夜の静けさに溶けていった。
腕の中でぐったりとするセレナの身体を、そっと抱き寄せる。
「……セレナ……」
名を呼ぶたび、胸の奥がじんと熱くなる。
あたたかい。やわらかい。 生きていて、今ここに、確かに抱きしめられる存在がいる。
レオンはセレナの髪にそっとキスを落とした。
夜明け前、まだ静かな部屋の中――
ふたりは、静かに、互いの温もりを感じながら、呼吸を落ち着かせる。
「……レオン……」
かすれた声で名前を呼び彼の方を向くと、レオンは優しくセレナの額にキスを落とした。
静かに撫でられる髪、肌を伝うぬくもり。
満たされているはずなのに、セレナの胸には小さな名残惜しさが残っていた。
(もっと……触れていたい……)
そんなふうに思ってしまった自分に、そっと顔を伏せる。
わがままなのかもしれないと思った――けれど。
どうしても抑えられなかった。
「……もう、いいの?」
セレナが、そっと囁くように尋ねると。
レオンは一瞬だけ動きを止め、セレナを抱き寄せた。
「……正直、全然足りない」
低く押し殺した声。
それだけで、セレナの奥がまたきゅんと疼いた。
けれど次の瞬間、レオンは優しく額を合わせ、静かに言った。
「でも……今日は我慢する」
「……え?」
「セレナが……ちゃんと回復したら……」
ほんの少しだけ、意地悪そうな、でも愛おしさに満ちた声色で。
「――寝かさないよ」
耳元でそっと囁かれたその言葉に、セレナはびくっと震えた。
(……我慢する、って言ったのに……そんなこと、言わないで……)
セレナの胸が、またどくんと高鳴った。
ぎゅっとレオンの胸にしがみつくと、彼も優しく背中を撫でてくれた。
「だから、今夜は……このまま、眠ろう」
低く、あたたかな声。
(レオン……優しい……)
セレナは、こくんと小さく頷き、レオンの腕の中で目を閉じた。
抱きしめられたまま、ふたりの心音が、ゆっくりと溶けていく――
***
セレナが小さな寝息を立て始めた頃、彼女の髪に顔を埋める。
かすかに香る甘い匂いに、胸の奥がじんと疼いた。
(……我慢するなんて、なんて言ったくせに)
腕の中のセレナは、無防備に眠っている。
今もこうして抱きしめているだけで、どうしようもないくらい、愛おしい。
けれど、ふわりと柔らかな寝息を感じるたび――
体の奥に滾るものを、必死に押し殺さなければならなかった。
(……触れたい。今すぐ、何度でも)
でも、今はだめだ。 無理をさせたくない。
何より、彼女を大切にしたい。
ぎゅっと強く、けれど優しくセレナを抱き寄せる。
(……次の休みになったら……絶対に、セレナをたっぷり甘やかして――好きなだけ、何度でも……)
レオンは静かに、そして決意を込めて心に誓った。
静かに目を閉じながら、眠るセレナの額にそっとキスを落とす。
そんな、静かで、甘くて、温かい夜だった。


