自室にに戻ったセレナは、夜の支度を済ませ部屋の中をぼーっと見つめていた。
足元には柔らかな絨毯、窓辺には薄くかかったレースのカーテン――どこもかしこも、自分には似つかわしくないほど美しく整っているのに、いまはもうそれを「怖い」とは感じなかった。
(………聖女………よくわからないけど………私は私に出来ることをやってみよう。)
ふとティオから言われた言葉が、浮かんでくる――
ー『頻度高めに体の関係を持ってみるとお互いにとっていいよって話。』
「………っ、なにを……」
頬がかあっと熱くなる。思わず両手で顔を覆って、ベッドの端に腰を下ろした。
「恥ずかしい……あんな相談もしちゃったし……」
でも。
ほんのすこし、心がふわりとほどけるように感じたのは、どうしてだろう。
体が軽くなったのは確かで、それは奇跡のような出来事で。
でも――それ以上に。
あのときのレオンの優しさが、触れ合いが、胸の奥をとろりと甘く溶かしていくようで。
「……あとで来てくれるって……」
怖くないとは言い切れない。
けれど、もう二度と、あの冷たい伯爵家のような場所には戻りたくない。
彼のそばで――温かくて、優しい手の中で、生きていたいと思ってしまった。
ーコンコン
いつものように静かに部屋の扉がノックされ、セレナはベッドに腰を掛けたまま緊張した声で返事を返すとレオンはそっと部屋へと入って来た。
「……レオン」
「……もう支度は済んだ?」
「う、うん……」
いつもと同じ、落ち着いた声。
けれど、その青い瞳がセレナに向けられた瞬間、どこか柔らかく、確かな熱がそこに宿っていた。
レオンは一歩、また一歩と控えめに歩みを進め、セレナの隣に腰を下ろした。
どこか気まずそうに、膝の上で手を組んで視線を伏せる。
「……その、さっきは……ティオの言い方が、ああいう感じだったから」
「ふふっ、大丈夫……ちょっと恥ずかしかったけど」
ふと目が合って、ふたりとも小さく笑った。
セレナは思わず視線を外し、レオンは指先でそっと髪をかき上げた。
けれど、すぐにまた沈黙が降りて、気恥ずかしさが部屋を包む。
セレナはうつむきながら、指先でシーツをきゅっとつまんだ。
すぐそばにいるのに、なぜだか緊張して、指先が落ち着かない。
「…………」
静かな空気のままレオンの手は、彼女の耳元の髪をかき上げる。
しっとりとした黒髪が、指先にからむように流れた。
露わになった小さな耳と、白く滑らかな頬にレオンの視線がとどまる。
「……綺麗だ、セレナ」
ぽつりと呟いた声に、セレナの鼓動が跳ねた。
そのままレオンは、片手をそっと彼女の頬に添え――
やさしく、やさしく。
指先で触れるような、熱を伝えるような、静かな口づけを落とす。
唇が重なった瞬間、セレナの背筋を甘い震えが走る。
目を閉じたまま、ほんの少しだけ首を傾け、彼の温もりを受け入れた。
静かに重なった唇が、ほんの少しの間だけ、熱を分け合って――
やがて、名残惜しげにゆっくりと離れた。
レオンの手は、まだセレナの頬に添えられたまま。
ふたりの視線が、ふいに交わる。
碧の瞳と、黒の瞳が、深く深く――静かに見つめ合う。
何も言葉はなく、ただお互いの想いを確かめるように、まばたきも忘れて。
先に逸らしたのはセレナだった。
頬がじんわりと熱を帯び、うつむいたまま、声も出せずに小さく息をのむ。
初夜を共に過ごしたとはいえ、互いの体温を感じるたびに胸が高鳴る。
あの夜とは違う、今の“確かに向き合っている”という感覚が、余計に緊張を引き起こす。
ふたりの間に流れる沈黙は、決して重苦しいものではなかった。
ただ、心を落ち着けようとするような、やさしくて、温かな“間”。
(……どうして……)
期待している。
もっと触れてほしいと、どこかで願ってしまっている。
それが、どうしようもなく恥ずかしくて、けれど、嫌じゃなくて。
だからこそ、セレナはほんの少しだけ、顔をあげることができた。
「……レオン」
セレナが小さく名前を呼ぶと、レオンの瞳がわずかに揺れた。
もう一度そっと顔を近づけ、柔らかなキスを落とす。
ぴたりと触れるだけの口づけ。けれど、それは深く心に染み渡るようで、セレナの指先が微かに震えた。
そのまますぐに離れたかと思えば、レオンは再びセレナの唇へと戻り、今度はほんのわずかに角度を変えて、軽く、けれど何度もキスを繰り返す。
重ねられるたびに、セレナの中の熱がじわりと増していくのがわかった。
「……んっ……」
思わず小さく声が漏れたとき、レオンの唇が彼女の下唇を、やわらかく、挟むようにすくい上げた。
ちゅっと乾いた音が微かに響き、セレナの頬に熱が走る。
ただ唇同士で甘く触れ合うそのキスは、まるでお互いの温度を確かめ合うようで、どこまでも優しく、そして甘やかだった。
唇が、そっと触れているだけなのに。
それだけで、どうしてこんなにも――胸の奥が疼くの?
「ん……っ」
レオンの唇が、柔らかく自分の唇に触れるたび、下腹部がきゅう、と締め付けられるような感覚に襲われる。
優しくされるほど、奥の方がじんわりと熱を帯びていく。
堪えきれず、小さく呟いた。
「……もっと……」
自分でも驚くくらい、無意識だった。
ただ、どうしようもなく求める気持ちが、唇を震わせた。
その声に、レオンの動きが一瞬だけ止まる。
そっと顔を傾けたレオンが、彼女の耳元にそっと囁く。
「……セレナ。口、開けて」
低く、掠れた声。いつも静かな彼の声が、今はどこか熱を孕んでいて、それだけで耳の奥がじんと震えた。
恥ずかしさと戸惑いが胸を打ったけれど、彼の声に逆らえるはずもなく、セレナは小さく唇を開いた。
「……っ」
すぐに、彼の舌がそっと差し込まれてくる。
温かくて、やわらかくて、甘く絡むような感触。
「ん……んぅっ……」
レオンの舌がセレナの奥を探るように動くたび、喉の奥がきゅんと鳴いて、脚の奥が疼いた。
レオンの舌がセレナのものをすくい、なぞり、吸い上げるように絡め取っていくたびに、身体の奥までじわじわと熱が染み込んでくる。
「……ん、…ぅ、ふ…………」
とろりと甘く、唾液が混ざり合う。
静かな部屋に水音だけが艶めかしく響き、二人の熱が、重なり合っていった。
「……セレナ」
レオンが唇を離すと、糸を引くように二人の口が名残惜しげに別れた。
微かに開いたセレナの口元には、ほんのり赤みがさしていて、息も熱を帯びていた。
潤んだ瞳で見つめ返すセレナの頬に、レオンの手がそっと触れ、やさしくなぞるように指が滑る。
触れるだけの軽い動きなのに、そこから火が灯ったように、じんじんと体温が上がっていく。
その指は、やがて耳の裏を撫で、首筋へ。
ぞくりと背中を走る震えに、セレナは小さく肩を震わせる。
「……肌、やわらかくて、気持ちいい……」
低く囁いたレオンの指先が、すっと首筋から鎖骨へと滑り落ちる。
ひやりとしたその感触に、セレナはきゅっと目を閉じる。
「ん……っ……」
白く繊細な肌の上を、彼の指が撫でていく。
胸のふくらみの手前で一度止まり、そしてそっと、その輪郭をなぞるように円を描いた。
「……あっ……レオン……」
思わず名前を呼ぶ声が漏れた。
くすぐったいような、熱いような感覚が胸の奥にじわじわと広がっていく。
レオンの手が、胸のふくらみにそっと沿った。
指先はあくまで優しく、輪郭をなぞるように動くだけで、その先にある“頂き”には届かない。
(……そこじゃ、ないのに……)
セレナの胸は高鳴り、肌はじんわりと火照っている。
触れられていないはずなのに、なぜか頂上がきゅっと固くなってしまっているのが、自分でもわかってしまって恥ずかしい。
レオンの指先が、すぐ近くまで来ている。
けれど、そこには一切触れない。
まるで、わざと避けているかのように。
(……レオン……触れて、ほしい……)
喉までこみ上げる願いは、言葉にならないままセレナの唇の奥に溶けていく。
言えない。言ったら、恥ずかしくて死んでしまいそう――でも。
身体は正直にびくんと反応してしまう。
なのに、彼の手は、焦らすように指先で柔らかな丘をくすぐるばかり。
(……意地悪……でも、もっと……)
気づけば、いつの間にか胸元を覆っていた布がずり落ち、肌が空気に晒されていた。
レオンの手が滑るように動くたび、服がそっと脱がされていたのだと今さら知る。
肩からずるりと落ちていく衣の感触が、肌にそっと這う彼の指と重なり、妙に熱っぽくて恥ずかしかった。
恥じらいと焦らされていた分の欲求がせめぎ合う中で――
「……あぁっ……!」
ついに、そこに触れられた。
レオンの指先が、頂きにそっと降り立つ。
まるで探るように、優しく、繊細に。
震えるほど柔らかな刺激だったのに、セレナの体はびくんと大きく跳ねてしまう。
「やぁ……っ……んんっ!」
止められなかった。
抑えていた声があふれ出し、喉から漏れた。
唇を噛んでも、熱い声はこぼれてしまう。
「……セレナ、声抑えないで……」
思考が熱に溶けていく。
触れられた頂点が、じくじくと疼き始めて、そこから下腹部へと痺れのような感覚が広がっていく。
身体の奥が、熱に浮かされるように、求めを訴えてきている。
「……ん、ぅ……んっ……」
熱く深い口づけは続いたまま、セレナの身体はすでにレオンの愛撫に完全に染まっていた。唇を吸われ、舌を絡められながら、その指先は彼女の衣の内へと滑り込み――いつの間にか脚の間にまで伸びていた。
「――んんっ……!」
濡れた音が、レオンの手元からも小さく立ちのぼる。
下着の上からなぞられた指に、セレナは喉の奥で声を押し殺した。
けれど、すでに布は意味を成していない。
わずかに触れただけでも、はっきりと感じるほど――そこはすでに熱を帯び、濡れていた。
(だめ……声が抑えられない……)
レオンの指が、濡れた蕾の周囲をじれったく、ゆっくり、やさしく撫でてくる。
その感触に、セレナの腰が小さく震え、キスされたままの唇からも、どうしても小さく声が漏れる。
「ん、ぅ……くっ、あ……」
敏感な場所を避けるように、でも絶え間なく愛撫され続けて――快感だけが焦らすように、募っていく。
彼の舌が口内を優しく這いながら、時折舌先を吸い上げてくる。
それだけでもセレナの身体は跳ねるのに、その下では指が、花弁の隙間をそっと撫であげて――
「……っ、ぁんっ…んっ……」
気づけば、セレナの脚の間にあった薄布は、跡形もなく取り払われていた。
むき出しの肌が、夜気に少しだけ震える。けれど、そんな戸惑いすら一瞬――
「んっ……やぁっ……!」
レオンの唇が、胸元に下りた。吐息まじりに優しく舌が這い、熱を帯びた先端をそっと舐め上げる。
舌先が柔らかく尖りに触れるたび、セレナの身体はビクビクと震え、思わず腰を浮かせてしまう。
「……ふ、ぁ……あっ……」
片方を唇に含まれたまま、もう片方の胸をそっと指先でなぞられる。
そのくすぐったくも甘い刺激に、セレナは思わずシーツを握りしめた。
(そんなにしたら、もう……)
熱く濡れた奥が疼いて、何かが欲しくて仕方がない。
そんな彼女の奥を察したように、レオンの手がゆっくりと下り――そして、指先が、その柔らかな入口を探りあてる。
「っ、あ、や……っ!」
ぬるり、と。ひとさし指が、中へ――
涙ぐんだ目でセレナが小さく叫ぶ。
侵入の感触に、身体が跳ね、甘い痕跡だけが、静かにシーツを染めていく。
「大丈夫……ゆっくり……」
レオンの低く優しい声とともに、指が一度止まり、またゆっくりと進む。
その動きにセレナの腰は逃げるように震えながらも、熱を追いかけるように彼にしがみつく。
「……あ……ふ、ぁ……」
唇が胸元に触れたまま、指がじわじわと奥へと進み、やがて――
奥まで届いた感覚に、セレナの喉から切なげな声が漏れる。
「……あ、やっ……そんな……一緒に……っ」
レオンの指が、セレナの奥を優しくかき混ぜる。くちゅ、くちゅと濡れた音が二人の間に響き、その指先の動きに合わせて、セレナの腰は無意識に揺れていた。
癒しと愛が重なる夜、ふたりは静かに再び結ばれて――


